吾国上世の神懸は其の式の厳粛斎整なる、その組織は左の三員より成る。即ち弾琴者至誠以て神霊に感合し降臨を願ふ者、神主即ち神霊の憑依する者今謂ふ媒霊者、審神者は憑依なるや否やを査定し、神名の告げあるに至りて真神なるや偽神なるやを鑑定し、亦其の問題に対する託宣の信用すべきや否やを審査して即ち之を判定する者にして、此の如く厳粛と精密に之を行へば、神誥の疑義に渉り亦誤解に陥る等はあるべき者にあらず。
神霊の憑依するや坐したるまま尤も端正に昇登し、其身体容貌言語等端斎整正、平素と大に異なる者に一見憑依たるを知る者にして、神憑の偽り欺瞞せんと欲するものあるも、神懸の実際を一見したる者は之に欺かるべき者にあらず。又精神病と憑依との差は能く両者を対照する時は敢て弁別の難き者にあらず。唯審神者たるには神典学を首とし、内外の歴史地理より天体地質物理化学、宗教哲学文学等百科の学に通ぜざれば、真神と偽神との弁別は為し得る者にあらず。高等の神位にあるの霊は学術に関するの答弁は概ね為し得る者なり。然れども此の如きは極めて稀なる者なりと、審神者は宏才博識の士にあらざれば能はざるは茲に存せり。
以上述べたる如く吾国の神懸は、神主弾琴者審神者の三者を具備して之を行ふ者にして、其厳粛にして完全せるは他に類例を見ざる者ならむ。此れ吾国神懸の彼れに長ぜる者なりとす。