神話は、初めから一冊の統一された本であったわけではない。祭りや語り、詩や演劇などを通じて伝えられ、地域や作者によって異なる形を取った。同じ神について食い違う話があるのは、そのような伝承の積み重なりによる。
ギリシャ側の柱は、ホメロスに帰される叙事詩『イリアス』『オデュッセイア』と、ヘシオドスの『神統記』『仕事と日』である。『イリアス』はトロイア戦争の一時期を、『オデュッセイア』は戦後に故郷を目指す英雄の旅を描く。『神統記』は神々の系譜と支配の成立を、『仕事と日』は労働や正しい生き方をめぐる問題を扱う。
さらに、アイスキュロスやソポクレスの悲劇を読む。悲劇は神話を劇として組み直した作品である。同じ物語でも、叙事詩と悲劇では、人物の苦悩や神の権力に向ける視線が異なる。
北欧側では、神々や英雄を歌う詩を集めた『古エッダ』と、13世紀のアイスランドの著述家スノッリによる『エッダ』が重要である。後者の『ギュルヴィたぶらかし』は神話を問答形式で説明し、『詩語法』は詩的表現を理解するために神話を紹介する。
概ね、詩と散文を読み合わせると物語の輪郭がつかめる。だが例外として、一方にしかない挿話や、説明が一致しない箇所もある。現存写本の年代と、個々の伝承が生まれた年代も同じではない。「古エッダはすべて古い原形で、スノッリはすべて後代の創作である」と単純に分けず、どの書物に何が記されるかを確かめて読むのである。
出典案内 ヘシオドス各作品、『古エッダ』各詩、スノッリ『エッダ』。
文・小山一夫(クンダリーニJP代表)