インドとイランの古い神話には、よく似た名の神々が登場する。インドのミトラとイランのミスラ、ヤマとイマ、祭飲料のソーマとハオマなどである。これらは、遠く離れた物語から似た場面だけを拾い集めた対応ではない。言語の規則的な関係が、共通の歴史を考える手がかりとなっている。
ただし、ここでいうインドとイランは、現在の二つの国家の宗教全体を意味しない。インド側では主に古いヴェーダの宗教、イラン側では『アヴェスター』とゾロアスター教の伝承を取り上げる。必要に応じて後代の物語にも進むが、イスラーム以降のイラン文化や、インドのすべての宗教を一括して扱うものではない。
比較の中心となる問いは、共通する神名や祭儀が、異なる社会と時代の中でどう受け継がれたか、ということである。神々を招く祭り、火と飲料、真理と偽り、死者の行く先などを、具体的な本文に即して見ていく。「神話」は信仰の真偽を判定する語ではなく、神々と世界の関係を語る物語という意味で用いる。
概ね共通の由来が明瞭な語ほど比較の確かな出発点となるが、例外として、同じ名を受け継いでも役割や評価が大きく変わる場合がある。ヤマとイマは、その代表例である。反対に、火に関わるアグニとアータルは、役割を比較できても同根の名前ではない。
一方を原本、他方を不完全な写しと考える必要はない。共通していたものと、それぞれの伝統が育てたものを区別することで、相違も理解しやすくなるのである。
出典・参照:『リグ・ヴェーダ』、『アヴェスター』、Encyclopaedia Iranica「Indo-Iranian Religion」。
文・小山一夫(クンダリーニJP代表)