世界はどのように始まり、人間は何のためにつくられたのか。大災害の後にも、人は生き続けられるのか。メソポタミアの神話と『創世記』には、こうした問いに向き合う物語がある。原初の水、土からの人間創造、洪水を逃れる船など、似た場面を手がかりに読み比べていく。
本連載で「ユダヤの神話」と呼ぶ対象は、主に古代イスラエルとユダの伝承を受け継ぐヘブライ語聖書の『創世記』第1~11章である。後代のユダヤ教の伝承全体を扱うものではない。「神話」という語も、信仰の真偽を判定するためではなく、世界と人間の根源を神聖な物語によって語る営みを指して用いる。
メソポタミア側では、『エヌマ・エリシュ』『アトラ・ハシース』『ギルガメシュ叙事詩』などを読む。ただし、これらは一冊の聖典の各章ではない。言語、成立時期、都市、作品の目的が異なるため、まずそれぞれの登場人物と筋道を理解する必要がある。
概ねメソポタミアの物語では複数の神々の関係が前面に出るのに対し、『創世記』では創造や救済を行う神が中心となる。ただし、この対比だけでは語れない共通点や例外もある。どちらにも言葉の力、人間の労働、神と人との結びつきが見られるからである。似ている点と異なる点の両方を確かめることで、各作品が伝えようとする人間観に近づきたい。
出典・参照:『創世記』1~11章、『エヌマ・エリシュ』、『アトラ・ハシース』、『ギルガメシュ叙事詩』。
文・小山一夫(クンダリーニJP代表)