本書は、神託と、それに隣接する啓示・召命の伝承を、受け手と儀礼の関係から考察する。比較の出発点は、最初に受け手となる契機と、受け手となった後の儀礼・職能との区別である。世襲や選任、修行を経て役割に入ることと、予期しない呼びかけによって使命を与えられることは同じではない。また、召命以前に宗教的な教育や所属があったことだけでは、神託を受けるための訓練を積んでいたとは言えない。
概観すると、前編で扱う神域や巫者の活動には、人が問い合わせ、一定の手続きを通じて答えを受ける傾向が見られる。後編の代表的な召命物語には、神の側からの呼びかけが生き方を変える傾向が目立つ。ただし、前編にも予期しない体験を契機に職能者となる例があり、後編の受け手にも召命後の祈りや問い合わせがあるため、全てが一様ではない。例外によって大きな傾向を消すことも、傾向を例外のない法則にすることも避け、それぞれの場面が何を示すのかを読む。
語注
本書では「神託」を、神意を告げる言葉とその受容を論じるための語として用いる。「席」は、神意を受け取り伝える場と仕組みの比喩である。ただし、異言や身体の発動が起きたことだけで、神託が成立したとはみなさない。体験の発生、伝えられた内容、その場の吟味、受け手の職分、後世に認められる権威を区別する。神や霊の働きに関する叙述は、各史料・伝承がそのように理解しているものとして読む。 人物の感情は、聖書などの本文に明記された感情や本人の発言に限って述べ、行動だけから内心を推測しない。