前書き ガンだけを見るのではなく、人間全体を見る
本書は、拙著『中国医学の歴史』と『漢方薬でガンは治るのか?』という二冊を下敷きにしている。
『漢方薬でガンは治るのか?』で私がたどり着いた結論は、決して明るいものではなかった。しかし、中国医学には二千年にわたって人間の身体と病を見つめ続けてきた歴史がある。漢方薬だけを見て、中国医学全体の可能性まで結論づけてよいのだろうか。そこから、本書の考察は始まった。
中国医学の歴史を振り返ると、そこには大きく、病気を治すための「治療医学」と、生命を養い、病気になりにくい身体をつくるための「養生医学」という二つの流れがある。さらに治療医学も、方剤を用いる湯液医学と、鍼灸を中心とする経絡医学という、異なる基礎理論から発展してきた。
本書は当初、「鍼灸でガンは治せるのか」という問いから書き始めた。しかし考察を進めるうちに、問題は鍼灸だけでは収まらなくなった。経絡医学、方剤、食養、内功法、そして養生まで視野を広げ、中国医学全体からガン治療の可能性と限界を考える必要があると思うようになった。
もちろん、本書は中国医学によってガンそのものを治せると主張するものではない。ガンそのものの診断と治療の中心は、手術、薬物療法、放射線治療など、現代医学の標準治療である。