第1章 『黄帝内経』から中国医学を考える
本書は当初、「鍼灸でガンは治せるのか」という問いから書き始めた。そのため、初稿では鍼灸そのものの説明にかなり多くの頁を使った。しかし、考察を進めるうちに、問題は鍼灸だけではなく、方剤、食養、内功法、さらには生命力や養生まで広がっていった。そこで本書では、最初に鍼灸の技術論へ入るのではなく、中国医学全体の根にある『黄帝内経』から出発したい。
1 『黄帝内経』とはどのような書物なのか
『黄帝内経』は、中国医学の最も重要な古典の一つであり、現存する中国医学文献の中でも最古層に属する。陰陽、五行、臓腑、経絡、気血、病因、診断、治療、養生など、後世の中国医学を形づくる基本的な考え方が、ここに広くまとめられている。
ただし、現在私たちが読む『黄帝内経』を、一人の著者がある時点で最初から最後まで書き上げた一冊の本と考えるのは適切ではない。複数の時代、複数の医学的伝承に属する文章が集積され、長い時間をかけて編集・整理されて現在につながった医学文献群と考える方がよい。
その意味で『黄帝内経』は、特定の医家一人の学説というより、古代中国の医学思想が大きな体系へまとまっていく過程を伝える書物である。だからこそ、鍼灸だけでなく、中国医学全体を考える出発点となる。