本書は高橋健二先生の訳で新潮文庫から出版されています。
日本では「車輪の下」など初期の作品がよく読まれていますが欧米では「シッダールタ」がヘッセの代表作だと言われています。
確かに彼の作品を年代別に並べて読みますとヘッセの真価が発揮されるのは「シッダールタ」以降だとわかります。
そして「シッダールタ」を受け継ぐ作品がこの「知と愛」なのです。
原題は「ナルチスとゴルトムント」。
「きみはここに留まるべき人間ではない」
ナルチスの言葉を背に修道院を後にし、遍歴を重ねるゴルトムント。
私は、彼の生き方に何ともいえない共感を覚えます。
戒律と修養の道に生きるナルチスと愛欲と放浪の暮らしに身を投じるゴルトムント。
ヘッセは「知」と「愛」をこの二人の人物に託して
真理への道を語ろうと試みます。
これは高校生の頃「シッダールタ」とともに強い感動を覚えた作品です。
ナルチスとゴルトムントの対照的な生き方、価値観のどちらを選ぶか?
それは、自らの魂の言葉に従うべきでしょう。
「『君は夢想家で、幻をいだいている。』と老院長は打ち解けて言った。
『幻というものは、たとえ敬虔な、悪意のないものであっても思い違いを指すものだ。
私がそういうものを信じないように、君も信じないようにしなさい。』」
「知と愛」高橋健二訳 新潮文庫