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「俺はこう思う」 鼓-1

著者:若月佑孔 / 元ブログ投稿日:2025-06-01

 

柳橋、粋なところからお客様が来た、料亭の内儀である、「吉田さんからお噂さを伺って参りました」との事で、吉田さんは先生の指示通りに動いてゐる、指示を本当に有難く思ってゐらっしやいましたとも云ふ、小々㐂しい。


「貴女が芸者なら、芸者らしくなりなさい。今日から、本当の芸者になりなさい」これが五十三才の薹の立ったお婆さん芸者への俺の言葉だったのである。そして、当の吉田さんも悟るところ有って喋ったのである。


五十三才ともなれば、橋場でも古参の姉さん株だ、若い妓など一緒になったら、下座に少さくなって、唄もうたへまい。封建的なあの社会では年令が、芸が階級を作るのである。老妓に睨まれた若妓は苦しむが、また其処に古るい花町の格式が残されるのではないか、でも、今では橋場の芸者屋で縁起柵が飾られて、御神燈の赤いちようちんのぶらさがってゐる家はない。


時代の流れか、漸く根岸の花柳界で二三軒見た。名残り惜しい事である。古のおもかげが失はれて行くその柳橋で、十七の年から、三十五年暮した老妓、先年旦那様を見送って、残されたのは借金、今更ら次の旦那を探す年でもあるまいし、さて、將来どうするかの悩みである。何か特殊な芸の鍛鍊があるに相違ないが、見当が付かぬ、爪に三味線系の跡はあるが、それだけではあるまい。「何ですか」「つづみです。」と言う訳だ。
 

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