若月佑孔の記事一覧

「俺はこう思う」 印度語-4

著者:若月佑孔 / 元ブログ投稿日:2025-06-09

 

夕方高い岩山の頂に立つ。東西南北を眺める。皆、山だ山だ。大行山脈が海の浪のうねりの様に四囲をとり巻いて夕陽の中で眠ろうとしていたよ。すぐ隣の峯に鴉が眞黒に集まってまだ死体を喰ひ荒して居るんだろう、時々風に吹かれた様に一せいに飛び立っては、ガーガーと鳴く、千里、風なまぐさし、新戰場で、あっ、地獄だね
「海から遠くなったな」俺はこんなことを考へて山から降りたっけ、


また、こんな事があった。
昭南島だ、俺は一人で小山をせいせいと息を切らして登って行った。終戰も間近の頃、防衞陣地を作る事を命令されて居た頃だ。


俺は、戰車壕や重機関銃陣地を作ることを命ぜられても、上級幹部ては、機密主義なのか、地図を渡さない、仕方がないから、自分でコツコツ歩るき廻って、目測で簡單な地図を作った事がある。今も山の上で地形を見ようと思ってなのだ。


昭南桜と名付けた薄紫の花が咲いてゐた。背丈程のワラビや笹竹を分けて頂上に立つと麓に置いて来た兵隊さんが小豆位に見える。此処からは海は見えない。暑い、ジヤンと陽が照り付けて、島も鳴かないんだ。


くづれた塹壕があってね、飯盒や壊れた銃や器具が散らばっていた。激戰地ブキテマ路に近い処だね、大きな兵隊靴が片方落ちてゐた、蹴飛ばしてみると、中から、思ひがけない大きな白い骨がとび出した。杜甫の詩だったか、古戰場と弔う詩に、「朽骨コオロギに穴せられ、徒づらに蔓草の藪うところとなる」と、此処で死んだ濠州兵、今度は、これから、俺達が此処で死ぬのか、熱い風が吹いてゐた。

 

元の記事